ジョージ・エリオット『フロス河の水車場』感想。大事なのは友情?恋愛?いや、人としての誠実さだ!(マクミランリーダーズ Level 2: Beginner)

東京のすみっこより愛をこめて。fummyです😊💡
英語多読100万語を目指して、洋書を読み進めています。

今回取り上げるのは、Macmillan Readers(マクミランリーダーズ) レベル2(Beginner)の、ジョージ・エリオット作『フロス河の水車場(The Mill on the Floss)』です!

やっぱり、古典が何百年単位で読み継がれているのには、それなりの理由があるなあ・・・としみじみ思いました。GR(Graded Readers)としてストーリーが簡易化されているのにもかかわらず、物語としての質が高いんですよね。

この『フロス河の水車場』も、「許されざる恋」がテーマの一つにあるのですが、男女の複雑な心理描写がかなりリアルに描かれていることがGRでも伝わってきます。なので、読んでいて色々考えさせられてしまいました。

200年前もいまも、人の悩みの種は一緒なんだな、って(笑)。

というわけで、本記事では、『フロス河の水車場』のあらすじ印象的なシーンの引用と翻訳この物語のテーマについて感じたことなどをまとめました。

ストーリーのネタバレをしていますので、未読の方はご注意ください!

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ジョージ・エリオット(George Eliot)とは

ジョージ・エリオット, George Eliot, Mary Anne Evans, メアリー・アン・エヴァンズ, フロス河の水車場, The Mill on the Floss, 肖像画

ジョージ・エリオットの肖像画(画像はWikipediaより)

ジョージ・エリオット(1819-1880)は、イギリスのウォリックシャー出身。ヴィクトリア朝を代表する作家です。

「ジョージ」という男性名なのに肖像画は女性なので「おや?」と思われる方もいるのではないでしょうか。「ジョージ・エリオット」はペンネームで、本名はメアリー・アン・エヴァンズ(Mary Anne Evans)。まごうことなき女性です(笑)。

ヴィクトリア朝のイギリス文壇では「女性作家の小説が認められることは困難だった」という事情があったため、メアリーは「ジョージ・エリオット」という男性名で作品を発表したのです。
同時代のイギリスの女性作家として、『ジェーン・エア』の著者として有名なシャーロット・ブロンテ(Charlotte Brontë)もいますが、彼女も同じ理由で、「カラー・ベル」という男性名のペンネームで作品を出版しています。

ジョージ・エリオットの代表作は『サイラス・マーナー』、『ミドルマーチ』、そして今回ご紹介する『フロス河の水車場(The Mill on the Floss)』などです。

ちなみに『ミドルマーチ』が光文社の古典の新訳シリーズで今年(2019年)出版されました。素晴らしいタイミング!(笑) 本当は原書で読める実力がつくまで我慢したいところなのですが、光文社の古典の新訳シリーズは大好きなので、待ちきれずに読んでしまいそうです。

ちなみに、メアリー(ジョージ・エリオット)は非常に高度な教育を受けていて、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ギリシア語、ラテン語を習得し、イギリス文学、音楽、哲学、宗教を勉強したとのこと。

しかし、そんな聡明な彼女なのですが、妻子持ちの哲学者ジョージ・ヘンリー・ルイス(George Henry Lewes)23年間不倫関係にあり、長らく世間から冷たい目で見られていました。(ちなみに、ジョージ・エリオットの「ジョージ」はこの方の名前から取られています。)

先に触れましたが、今回ご紹介する『フロス河の水車場』の中心に「許されざる恋」がテーマとしてあります。この物語において、男女の複雑な心理描写がかなりリアルなのは、メアリー自身の恋愛経験に基づくものだと考えると納得です。

また、メアリーが幼少の頃から敬虔なキリスト教徒だったのが、この物語の衝撃の結末につながっているような気もしています。

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『フロス河の水車場(The Mill on the Floss)』について

今回取り上げる『フロス河の水車場』は、以下の本です。

原書ではなく、マクミランリーダーズという、英語学習者用に簡単な英語で書かれた洋書のシリーズの一つであることをご了承ください。

原書と比べると不足する部分もあるとは思いますが、『フロス河の水車場』は日本語版のWikipediaは存在しないし、邦訳版もAmazonでは絶版になっているようなので(2019年1月時点)、日本語による情報が少なそうだと感じました。なので、GR版とはいえ、あらすじや感想をまとめておくことは、それなりに意義があるのかな、と勝手に思っております(笑)。

ちなみに、『The Mill on the Floss』は、マクミランリーダーズのレベル2(Beginner)の本で、「MMR2+」に当たります。「MMR2+」の詳しい難易度が気になる方は、以下の記事で解説していますので、参考にしてみてください!

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『フロス河の水車場』のあらすじ

ジョージ・エリオット, George Eliot, Mary Anne Evans, メアリー・アン・エヴァンズ, フロス河の水車場, The Mill on the Floss

舞台は1828〜1840年のイギリス東部です。

マギー・タリヴァー(Maggie Tulliver)は、黒髪・黒い瞳の美しく聡明な少女です。幼い頃から、フロス河畔の水車小屋に、両親、そして兄のトム(Tom Tulliver)とともに暮らしていました。

父親のタリヴァー氏は水車小屋で粉挽きに従事していましたが、フロス河の水の所有権をめぐっての裁判に敗訴し、賠償金の支払いのために、水車小屋や土地など全てを失った上に、多額の借金を背負うことになります。

この裁判で、相手側の弁護士を務めたのが、意地の悪いウェイカム弁護士(Lawyer Wakem)でした。ウェイカム弁護士は、売りに出されていたタリヴァー氏の水車小屋や土地などを購入し、タリヴァー一家をそこで使役します。この屈辱に、タリヴァー氏と息子のトムは、生涯にわたってウェイカム一家を憎むことを誓います。

ところがマギーは、幼い頃にウェイカム弁護士の息子のフィリップ(Philip Wakem)と出会っていました。裁判から数年後、マギーが18歳の時に、二人は偶然にも再会し、お互いに恋に落ちてしまいます。しかしフィリップは、父と兄の憎むウェイカム家の息子。二人は秘密の逢瀬を重ねますが、いつしか兄のトムに知られてしまい、二人の恋愛関係は終わりを告げます。

水車小屋

写真は、water mill(水車小屋)。wind mill(風車小屋)も好き。

それから何年か経ったのち、トムの努力で借金を返済し終えることができ、ついにタリヴァー家はウェイカム家の支配から解放されることになります。しかし同時期にタリヴァー氏が亡くなり、一家はフロス河の水車場から離れることになりました。一家は水車小屋からほど近い、同じくフロス河沿いにある街であるセント・オッグス(St Ogg’s)で暮らし始めます。トムは一人暮らし、マギーと母親は、親戚のディーン家(The Deanes)に身を寄せることになりました。

ディーン家には、マギーのいとこのルーシー(Lucy Deane)がいました。

ルーシーは純真な少女で、マギーを実の姉のように慕っていました。しかし彼女はなんとフィリップ・ウェイカムと友人で、スティーヴン・ゲスト(Stephen Guest)という青年と恋人同士でした。ルーシーはマギーからフィリップとの悲恋の話を聞いて心を痛め、マギー、トム、フィリップが仲良くなれるように尽力したいと申し出ます。そしてルーシーはスティーヴンと、マギーはフィリップと結婚して、みんなで幸せになろうと提案します。

しかし、ルーシーの恋人であるスティーヴンが、ルーシーに会いにディーン家を頻繁に訪れ、ルーシー、スティーヴン、マギーの3人で仲良く過ごすうちに、スティーヴンとマギーはお互いに恋に落ちてしまうのです・・・。

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『フロス河の水車場』におけるマギーの「許されざる恋」

『フロス河の水車場』のテーマの一つが、マギーの「許されざる恋」です。

黒髪・黒い瞳で、誰もがハッとするような美貌をもつマギーなのですが、恋をしてはいけない男性に恋をしてしまい、苦悩します。またそれが原因で、物語を通して、兄のトムと仲違いすることになります。

物語を俯瞰的に見られる神(※読者)の立場からすると、「フィリップと幸せになってほしかったなあ・・・(>_<)」と、どうしても思ってしまいます。マギーが早々にフィリップと結婚できていれば、あらゆる悲劇が起こらなかったのに・・・。

そんなわけで、次項から、このマギーの悲劇的な恋について、詳しく見ていきたいと思います。

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許されざる恋①:タリヴァー家の宿敵「フィリップ・ウェイカム」

タリヴァー家、とりわけタリヴァー氏と長男のトムは、ウェイカム弁護士一家を憎んでいました。ウェイカム弁護士は、フロス河の水の所有権をめぐる裁判で、タリヴァー家から水車小屋や土地など全てを奪った上に、奪った水車小屋でタリヴァー一家を長年使役したからです。

マギーはあろうことか、この憎むべきウェイカム家の長男、フィリップ・ウェイカム(Philip Wakem)に恋をしてしまいます。しかもマギーとフィリップは、お互いに愛し合うようになります。

フィリップはマギーの兄のトムと同じ寄宿学校に通っていたことがあるため、そこに遊び行ったマギーと幼い頃に出会っています。以下は、18歳になったマギーがフィリップと久しぶりの再会を果たし、お互いの苦悩を吐露するシーンです。

‘Am I beautiful, Philip?’ Maggie said. ‘I am not beautiful. I am very unhappy.’
‘I am unhappy too, Maggie,’ Philip said. ‘I am a man now. But I will never be tall and strong. My back will always be twisted.’
‘Oh, Philip, that is not important,’ Maggie said.
‘Will we meet again?’ Philip asked. ‘Will you be my friend?’

*日本語訳(拙訳)*
「わたしが綺麗ですって?」と、マギーは言った。「わたしは綺麗なんかじゃないわ。とても不幸せですもの」
「僕も不幸だよ、マギー」と、フィリップは言った。「僕はもう大人の男だ。だけど背は伸びないし、体もたくましくはならない。背中がゆがんでしまっていて、もう治らないんだよ」
「ああ、フィリップ、そんなこと問題ないわ」と、マギーは言った。
「また会えるかな」と、フィリップは言った。「君と友達になりたいんだ」

George Eliot, The Mill on the Floss, Macmillan Education, 2005, p.29.

この後二人でちょくちょく会うようになるのですが、そのことをトムに知られてしまい、二人は別れさせられてしまいます。

このように、タリヴァー家から恨まれ拒絶されているフィリップではあるのですが、そもそも、タリヴァー家に直接の危害を加えたのは、ウェイカム弁護士本人のみであり、フィリップがタリヴァー家に何かしたというわけではないんですよね。

フィリップはむしろ知的で物静かな青年で、マギーと出会ったことによって救われています。マギーが、彼の生涯のコンプレックスである背中のゆがみを、何の気兼ねもなく肯定してくれたからです。なので、フィリップは、何もしていないのに一方的に恨みを買い、愛するマギーとの関係も否定されてしまう、かわいそうな人物です。

たとえ背中はゆがんでいても、心は真っ直ぐだよ、フィリップ・・・!

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許されざる恋②:ルーシーの恋人「スティーヴン・ゲスト」

次のマギーの恋の相手は、いとこのルーシー(Lucy Deane)の恋人である、頭が良くて長身でハンサムな絵に描いたようなイケメン、スティーヴン・ゲスト(Stephen Guest)です。

タリヴァー氏の死後、マギーと母親は、親戚のディーン家(The Deanes)に身を寄せることになりますが、そのディーン家に、マギーのいとこのルーシーがいました。ルーシーは純真で本当にいい子。マギーを実の姉のように慕っていました。

スティーヴンとマギーの出会い 〜「許されざる恋」の始まり〜

ルーシーは、マギーがかつて想いを寄せたフィリップ・ウェイカムと友達でした。そのため、お互いに愛し合いながらも立場上叶わなかったマギーと彼との悲恋の話を聞き、力になりたいと申し出ます。

‘Oh, Lucy, I must not meet Philip Wakem,’ Maggie said. ‘Tom hates him. Philip and I were in love. But my father hated Mr Wakem. And Tom hates Philip.’
‘That is a sad story,’ Lucy said. ‘I will make you happy. Philip is in Italy now. But he will come back soon. I will speak to Tom. Tom and Philip must be friends.’
‘You must marry Philip,’ said Lucy. ‘And I will marry Stephen. We shall all be happy!’

*日本語訳(拙訳)*
「ああ、ルーシー、わたしはフィリップ・ウェイカムには会ってはいけないの」と、マギーは言った。「トムは彼のことが大嫌いなの。フィリップとわたしは、かつてはお互いに愛し合っていたわ。でも父はウェイカムさんのことを憎んでいるし、トムもフィリップのことを毛嫌いしているのよ」
「悲しいお話ね」と、ルーシーは言った。「わたしがあなたを幸せにしてあげるわ。フィリップはいまはイタリアにいるけれど、もうすぐ戻ってくるの。わたしがトムと話してみる。トムとフィリップを仲良くさせないといけないわ」
「あなたはフィリップと結婚するべきよ」と、ルーシーは言った。「そして、わたしはスティーヴンと結婚する。みんなで幸せになるのよ!」

George Eliot, The Mill on the Floss, Macmillan Education, 2005, pp.36-37.

ここまでは良かったのですが、ルーシーの恋人のスティーヴンが、ルーシーを訪ねてディーン家を訪れるうちに、マギーとスティーヴンがお互いを好きになってしまったことで、新しい悲劇が始まりました。

マギーもスティーヴンも、お互いを好きになってはいけないと思いつつも、ルーシー、スティーヴン、マギーの3人で仲良く過ごすうちに、お互いに惹かれ合っていきます。その後フィリップがイタリアから帰国し、4人で過ごすようになりますが、マギーの気持ちはフィリップではなくスティーヴンに傾き、もはやマギーとスティーヴンの気持ちは止まらなくなってしまいます。

そしてついにスティーヴンが、ルーシーと恋人関係でありながら、マギーにアプローチを始めます。いわゆる浮気です。

スティーヴンのアプローチとマギーの苦悩 〜友情と恋愛の狭間〜

マギーがある日フロス河沿いを一人で散歩していると、スティーヴンが馬に乗ってやってきます。

‘Why are you here?’ Maggie said. ‘We must not meet alone.’
‘You are angry,’ Stephen said. ‘I understand. But I love you. I love you, Maggie.’
‘You must not say that,’ Maggie said. ‘You must go away, Stephen.’
‘I love you. Please love me,’ Stephen replied.
‘Don’t say that!’ Maggie said. ‘You love Lucy, Stephen.’
‘Do you love me, Maggie?’ Stephen asked. ‘Tell me, Maggie!’
Maggie did not answer. She started to cry.
‘We love each other,’ Stephen said. ‘Lucy will understand.’
‘I love you, Stephen,’ Maggie said. ‘But I love Lucy too. She is my friend. I cannot be cruel to Lucy. Please, Stephen, leave me. Please, go away.’

*日本語訳(拙訳)*
「どうしてここにいるの?」と、マギーが言った。「わたし達、二人きりで会ってはいけないわ」
「怒っているね」と、スティーヴンは言った。「わかってる。でも僕は君が好きなんだ。愛しているんだよ、マギー」
「そんなこと言わないで」と、マギーは言った。「帰ってちょうだい、スティーヴン」
「愛してる、どうか、僕のことを愛して欲しい」と、スティーヴンは答えた。
「そんなことを言ってはダメ!」と、マギーは言った。「あなたが愛しているのはルーシーなのよ、スティーヴン」
「僕のことを愛しているかい、マギー?」と、スティーヴンは尋ねた。「教えてくれ、マギー!」
マギーは答えなかった。彼女は泣き出した。
「僕らは愛し合っている」と、スティーヴンは言った。「ルーシーはわかってくれるよ」
「あなたを愛しているわ、スティーヴン」と、マギーは言った。「でも、わたしはルーシーのことも大好きなの。あの子はわたしの友達よ。ルーシーにひどいことはできないわ。お願い、スティーヴン、わたしを置いて、帰ってちょうだい」

George Eliot, The Mill on the Floss, Macmillan Education, 2005, p.47.

押しの強いイケメンは嫌いではないですが(と、上から目線で言っていますが・・・基本的にはトキメキます。笑)、スティーヴンは人としてやってはいけない過ちを犯してしまいます。引用にあるように、「ルーシーはわかってくれるよ」と言いながら、全然ルーシーに話さないんですよね。

相変わらずディーン家には、スティーヴンとフィリップが頻繁に訪れ、ルーシー、マギー、スティーヴン、フィリップの4人で音楽を演奏したり歌ったりと、楽しい時間を過ごします。スティーヴンは次第にラブソングをマギーに向けて歌うようになりますが、ルーシーは全く気付きません。ルーシーはスティーヴンのことを全く疑っていないのです。(Stephen sang love songs. He did not sing them for Lucy. He sang them for Maggie. But Lucy did not understand.)(p.49)

いまやフィリップよりもスティーヴンに惹かれており、その気持ちを抑え切れないマギー。けれども、スティーヴンとルーシーはいまだに恋人同士だし、何よりも、何の疑いもなくスティーヴンを愛する、大好きなルーシーを悲しませたくない。たまりかねたマギーは、ついに一人でセント・オッグスを去ることを決意します。

しかし、ここでついに、致命的な事件が起こります。

ルーシーへの裏切り行為の代償 〜「許されざる恋」の終焉〜

マギーがセント・オッグスを去る日が近づいたある日、スティーヴンとマギーが二人きりになるチャンスが訪れました。二度と会えなくなる前に、一時間だけ一緒の時を過ごそうと、二人はボートに乗って、フロス河を下降します。楽しい時間を過ごした二人でしたが、気づいた時にはすっかり遅くなり、予定よりもずっと遠くにきてしまいました。

こんなに長時間二人きりでいたことを、もはやルーシーに言い訳できません。追い討ちをかけるように、スティーヴンは「このまま二人で逃げてしまおう、二人でこのまま結婚しよう(Let’s not go back! Let’s get married!)(p.51)」というところまで話を進めます。一度は気持ちが流されかけたマギーでしたが、「自分の行いは間違っている」と気をとりなおし、スティーヴンに別れを告げます。

‘Maggie!’ Stephen said. ‘I was wrong yesterday. I’m sorry!’
‘We were both wrong yesterday,’ Maggie said.
‘But we love each other,’ Stephen said. ‘That cannot be wrong.’
We are both cruel to Lucy,‘ said Maggie. ‘That is wrong! I love you, but I cannot marry you. I am going back to St Ogg’s — alone!’

*日本語訳(拙訳)*
「マギー!」と、スティーヴンは言った。「昨日、僕は間違っていた。本当に申し訳ないと思ってる!」
「わたしたちは、昨日は二人とも間違っていたのよ」と、マギーは言った。
「でも、僕たちは愛し合っているじゃないか」と、スティーヴンは言った。「それは悪いことじゃないはずだ」
わたしたちは二人で、ルーシーにひどいことをしているの」と、マギーは言った。「それが悪いことなのよ! わたしはあなたを愛しているわ。でも、あなたとは結婚できない。セント・オッグスに戻るわ — 一人で!」

George Eliot, The Mill on the Floss, Macmillan Education, 2005, p.53.

さて。ちょっとここから、スティーヴン叩きを始めたいと思います(笑)。

「恋人がいながら他の人を好きになってしまったこと」自体は仕方がないし、悪いことではないとわたしも思います。でも、マギーの言っている言葉が全てで、「ルーシーに対して不誠実な行いをしていること」が悪です。

わたしとしては、マギーをきっぱり諦めろというつもりもないんですが、ルーシーと恋人関係でありながら、裏でコソコソ浮気行為を重ねていくのが不誠実。それが、

  • どれだけルーシーを傷つけるか
  • どれだけマギーの信用を失くすか

を、想像できていないっていうところが問題です。

こういうことをしてしまうと、男女の関係以前に、

人の信頼を裏切ることを平気でしてしまう人
何の痛みも感じない人

っていうふうに捉えられてしまうんですよね。人としての信頼を失ってしまいます。
だから結果として、スティーヴンは二人の女性を失ってしまうことになります。

スティーヴンの不誠実な行為が産んだもの 〜二人の女性の不信感〜

ここで、自分がマギーの立場になることを想像してみてください。

マギーから見ると、ルーシーに対して一切行動を起こさないで浮気行為を裏で進めるスティーヴンは、「自分が悪いことをしている自覚がない」ように見えるわけです。つまり、同じようなことが将来的に悪気なく繰り返される可能性がチラついてしまいます。

スティーヴンと結婚したとしても、例えば将来的にマギーよりも若くて綺麗な子や気の合う子とスティーヴンが出会って恋に落ちてしまったら、

マギーには何も言わずに裏で浮気行為を重ね、最終的には「好きになってしまったものは仕方ない」って言って、自分の前からいなくなってしまうんだろうな・・・

と、容易に予測できてしまいますよね。だってこれだけいい子で、何の疑いもなく信頼と愛情を彼に注いでいたルーシーに対する「彼の対応(仕打ち)」を目撃してしまっていますから。

ルーシーから見ても同様です。

ルーシーに何も言わずに浮気行為を繰り返すスティーヴンは、「ルーシーへの裏切り行為を悪いことだと思っていない」ように見えてしまいます。

ルーシーはマギーのことは許し、事件後に自らマギーに会いにきます。マギーはルーシーに「どうかスティーヴンを許してあげて(Forgive him, Lucy)(p.57)」と言いますが、ルーシーはそのことについてはノーコメントです。ルーシーとスティーヴンの関係を回復するのはもはや難しいだろうし、できたとしてもとても時間がかかると思います。ルーシーはいまや、

「スティーヴンは自分との信頼関係を失っても何の痛みも感じない人だ」
「自分はスティーヴンにとってその程度の、取るに足らない存在だ」

と思ってしまって傷ついているでしょうから。

スティーヴンは一心に愛情を注いでくれるルーシーに甘えていたんですよね。

おそらく悪気はあまりなく、事の重大さを理解していなかったのだと思います。浮気をする男性の典型的な心理&行動描写だと感じましたが、ルーシーとマギーを失ったことで、スティーヴンが、

  • いかに二人の女性を傷つけたか
  • いかに二人の女性の信頼を失ったか

を学んでくれると良いのだけど・・・と、思います。

一方で、スティーヴンとマギーの行動は、フィリップにも知られることになりますが、こんなことになっても、フィリップはマギーへの変わらない愛を伝える、控えめだけど優しい手紙をマギーに送ります。

フィリップの一途さに泣けてきます。

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『フロス河の水車場』の結末について

『フロス河の水車場』のテーマは、「マギーの許されざる愛」の他に、「トムとマギーの兄妹愛」もあると思います。

物語の冒頭から、「敵対するウェイカム家のフィリップとの恋愛」などの様々な原因で反目し合う兄妹なのですが、物語の最後の最後に、トムとマギーはようやく和解することができます。

ただし、結末が結構衝撃的なので、ここではぼやかしておきますね。

この結末は賛否両論だと思いますが、わたしとしては、これが「救済」なのか「罰」なのか、または別のものなのか考察できずにいます。もう少し、キリスト教の教義や、ジョージ・エリオットの作品の知識を蓄えてから別途語りたい案件です。というわけで、本件は今後の宿題ということにしておきます!

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まとめ:人として誠実であるために

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ここまで散々スティーヴン叩きをしましたし、「人に不誠実な行いをするのが悪」とか「誠実さが大事」とか偉そうなことを言ってきましたが、なかなか完全に綺麗には生きられないですよね。例え「そうありたい」と強く願っていても。

『フロス河の水車場』を読んで、わたし自身も「今まで悪気なく(時には良かれと思ってやったことで)人を傷つけてきたなあ・・・」と、つい思いを巡らせてしまいました。意外と「優しい」と言ってもらえることが多くなってきたわたしなのですが(幻想じゃないかな?笑)、今までそれだけ人を傷つけてきて、やっと人の痛みが理解できるようになってきたからだと思っています。

とはいえ、まだまだ世界には触れたことがないものや、知らないことがたくさんあるので、また意図せず人を傷つけてしまうことがあるかもしれないけれど、そうやって間違えながら、学んでいくしかないんですよね。

あれ? なんだか人生観語りになってますが。(笑)

うん、まあ、そんなわけで。
それでは、今日も素敵な一日を!

fummy

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