『ハックルベリー・フィンの冒険』(マクミランリーダーズ Level 2: Beginner)感想と解説。英語多読用の洋書で感動 …!

マクミランリーダーズ, macmillan readers, beginner, level 2, the adventures of huckleberry finn, ハックルベリー・フィンの冒険

東京のすみっこより愛をこめて。fummyです😊💡

英語多読100万語を目指して、英語学習者用の洋書のマクミランリーダーズ(Macmillan Readers)を読み進めています。

レベル2(Beginner)に入ってから、古典文学のリトールド(retold)ものにかなりハマっているのですが、なかでも最近読んだ『ハックルベリー・フィンの冒険(The Adventures of Huckleberry Finn)』が、本気でおもしろくて、めちゃくちゃ感動してしまいました。

そんなわけで、『ハックルベリー・フィンの冒険』のあらすじや感動ポイントなどを、本文を引用して日本語訳をつけながら、勢いに任せて書いていきます!(好きなシーンが多すぎて・・・たくさん引用しました。笑)

なので、未読の方は引用箇所を見ていただければ、英語表現の難易度の確認ができますし、読了後の方は内容の復習ができると思います。また、「いま読み進めているけれども内容が難しい」という方がいたら、読書ガイドとしても使っていただけるのではないかと思います。

ストーリー前半部分のネタバレがありますので、ご注意くださいませ!!

SPONSORED LINK

『ハックルベリーフィンの冒険』の舞台と時代背景

今回読んだのは、こちらの本です。

まずは、『The Adventures of Huckleberry Finn』を楽しむにあたって、この本の導入部分に書かれている解説と、Wikipediaの「マーク・トウェイン」と「ハックルベリー・フィンの冒険」のページを元に、物語の前提となる時代背景などをご紹介します!

ちなみに、『The Adventures of Huckleberry Finn』は、マクミランリーダーズのレベル2(Beginner)の本で、「MMR2+」に当たります。「MMR2+」の詳しい難易度が気になる方は、以下の記事で解説していますので、参照ください。

前提知識①:作者はアメリカ文学作家「マーク・トウェイン」

マーク・トウェイン(Mark Twain, 1835.11.30〜1910.4.21)は、『トム・ソーヤーの冒険』で有名な、アメリカ・ミズーリ州出身の作家です。
Wikipediaを見るとずらっと作品が並んでいることからもわかるように多作であった上に、世界中で講演活動を行ったらしく、めちゃくちゃ売れっ子だったようです。

「マーク・トウェイン」という名前は実はペンネームで、本名はサミュエル・ラングホーン・クレメンズ(Samuel Langhorne Clemens)。

ペンネームの由来は、蒸気船(steamboat)です。

S.S. Inlander on the Skeena River at Kitselas Canyon, 1911 (WikipediaのSteamboatのページより)
※写真はカナダの蒸気船です。煙突からは蒸気がのぼり、外車(paddle wheel)の推進力で前進します。

マーク・トウェインの出身地であるミズーリ州は、アメリカで一番長い川であるミシシッピ川に接しています。19世紀には、その川を蒸気船が航行していました。船が座礁しないように、蒸気船からは、3フィート(0.9メートル)ごとに印をつけたロープを垂らしていて、それで水深を測りながら通航していました。

川では、しょっちゅう「マーク・トウェイン!(mark twain!)」という掛け声が聞こえてきました。これは、蒸気船から垂らしたロープの2つ目の印(second mark)のことで、安全に通航できる限界値である、水深6フィート(1.8メートル)を表していました。

ミズーリ州で暮らす中で、サミュエルはこの掛け声を何度も何度も耳にしていたため、ペンネームとして採用したのでした。

前提知識②:人種差別の厳しい「19世紀のアメリカ南部社会」が舞台

『ハックルベリー・フィンの冒険』の物語の舞台は、1846年のアメリカ南部ミズーリ州にある架空の町、セント・ピータースバーグ(St Petersburg)です。

南北戦争(1861-1865)で奴隷解放が宣言されるまで、アメリカには北東部の「自由州(free states)」と、南部の「奴隷州(slave states)」がありました。

物語の舞台のミズーリ州は、奴隷州(地図の赤色の州)のひとつで、アメリカを南北に縦断するミシシッピ川に接しています。セント・ピータースバーグは、ミズーリ州北部の、ミシシッピ川のほとりに位置しているという設定です。

St Petersburg, slave states, free states, huckleberry finn, ハックルベリー・フィン

セント・ピータースバーグ(★)と、1846年時点でのアメリカの自由州(水色)と奴隷州(赤)。
(WikipediaのSlave states and free statesのページの画像を元に作成)

なぜ北部が自由州、南部が奴隷州ときれいに分かれているのかというと、大きな理由は、それぞれの主要産業にありました。北部の主要産業が工業だった反面、南部の主要産業は、綿花やタバコなどの栽培でした。南部の産業は黒人奴隷に労働力を依存しており、南部では黒人奴隷は不可欠な存在でした。

奴隷州では、奴隷は所有者の財産という扱いなので、奴隷が逃亡すると、賞金がかけられて追跡されました。南部の中には、奴隷を所有しない州もありましたが、それでも逃亡奴隷をみつけた時には、捕まえて所有者に引き渡すのが普通であり、州の法律でした。

自由州では奴隷を所有することが禁止されていて、逃亡奴隷を捕まえるのも違法でした。

このため、自由を求めて、逃亡奴隷は、アメリカ北東部の自由州を目指しました。

SPONSORED LINK

『トム・ソーヤー』と『ハックルベリー・フィン』の3つの違い

『ハックルベリー・フィンの冒険』は、『トム・ソーヤーの冒険』の続編です。

同じくマクミランリーダーズのレベル2(Begginer)で、『トム・ソーヤー』も読むことができます。

『トム・ソーヤー』の物語の舞台は1844年ですが、『ハックルベリー・フィン』はその2年後である、1846年の設定です。ハックルベリー(愛称はハック)は、トムの親友のひとりで、『トム・ソーヤー』でもよく一緒に冒険をしていました。

『トム・ソーヤー』を読んでいなくても『ハックルベリー・フィン』を楽しむことはできます。しかし、同じ時代の同じ場所が舞台なため、『トム・ソーヤー』から続けて読んだ方が、より物語やキャラクターに親しみが湧きます。また、同じ英語表現・英単語が多用されているので、続けて読むと記憶しやすいというメリットがあります。

違い①:『ハックルベリー・フィン』は、人種差別問題が主題

時代も舞台もほぼ一緒なのですが、『トム・ソーヤー』では、黒人奴隷が登場しません。そのため、アメリカ南部の人種差別問題を感じさせない内容になっています。

『トム・ソーヤー』は、とにかく好奇心旺盛な少年たちがキラキラしていて、大人が読むと、「かつてわたしたちも少年(少女)時代があったな・・・」としみじみ思い出すような雰囲気です(笑)。

それが一転して、『ハックルベリー・フィン』では人種差別問題がストーリーの主題になっています。

貧困層の白人の少年ハックと黒人の逃亡奴隷のジムの人種を超えた友情、その一方での白人の法を破るハックの葛藤が、丁寧に描かれています。そこが、この物語の深くて、ドラマティックで、面白いところなんです・・・!

違い②:『ハックルベリー・フィン』は、より冒険要素が強い

『トム・ソーヤー』は、セント・ピータースバーグ周辺で起こる事件がメインだったのですが、『ハックルベリー・フィン』では、ハックと黒人奴隷のジムが、セント・ピータースバーグを脱出して、ミシシッピ川をどんどん南にくだって行きます。

St Petersburg, slave states, free states, huckleberry finn, ハックルベリー・フィン

セント・ピータースバーグ(★)と、1846年時点でのアメリカの自由州(水色)と奴隷州(赤)。
(WikipediaのSlave states and free statesのページの画像を元に作成)

二人は、地図中の「★」のセント・ピータースバーグをいかだで出発して、ミシシッピ川(Mississipi River)を下降し、オハイオ川(Ohio River)との合流地点であるカイロ(Cairo, 地図には書いていません)を目指します。そして、カイロで蒸気船に乗り換えて、オハイオ川を北上し、北東部の自由州を目指すという計画を立てます。

追っ手にいつ捕まるかもわからない、何が待ち受けているのかわからないというハラハラ感が常につきまとうため、『トム・ソーヤー』よりも冒険要素が強いです。

また、州を超えて移動していくため、ミシシッピ川周辺の土地勘もつきます(笑)。

違い③:『ハックルベリー・フィン』は口語体

『ハックルベリー・フィン』は、口語体で書かれた最初の小説のひとつだそうです。

マクミランリーダーズでもこれはしっかり再現されていて、本全体を通して、ハックの語り口調で語られます。冒頭はこんなかんじです。

My name is Huckleberry Finn. My friends call me Huck. I am fourteen years old.
Have you heard about me? Have you read about me and my friend, Tom Sawyer? Mr Twain wrote a book about us.

*日本語訳(拙訳)*
ぼくの名前はハックルベリー・フィン。友達にはハックって呼ばれてるよ。年は14歳。
ぼくのことを聞いたことあるかい? ぼくと、ぼくの友達のトム・ソーヤーのこと、読んだことある? トウェイン氏がぼくたちのことを、本にしたんだよ。

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.9.

・・・ちょっと魔が差して、「オッス オラ ハックルベリー・フィン!」って訳そうとして止めました。(!?)

SPONSORED LINK

『ハックルベリー・フィンの冒険』のあらすじ

ここからは、『The Adventures of Huckleberry Finn』の好きなシーンを引用しながら、ストーリー前半までのあらすじを書いていきたいと思います!

あらすじ①:『ハックルベリー・フィンの冒険』の幕開け。ハックの生活は?

『トム・ソーヤーの冒険』では、ハックには家族がいませんでした。

母親が早くに亡くなった後、父親はハックを置き去りにして、セント・ピータースバーグを出て行ってしまったのです。ハックは学校にも教会にも行かず、そのへんの野原や納屋で寝起きするという生活をしていました。

しかし、『トム・ソーヤー』で色々あった結果、ハックはダグラス夫人(Mrs Douglas)という未亡人に引き取られ、学校や教会に(嫌々ながら(笑))行くようになりました。また、『トム・ソーヤー』の最後には、トムとともに盗賊の宝を手に入れて、大金持ちになっていたのです。

ハックはこうして、セント・ピータースバーグのダグラス夫人のもとで、退屈で窮屈な思いをしながらも、そこそこ幸せな生活を送っていたのでした。

あらすじ②:ハックルベリー・フィン、逃亡を決意する

ところが、ハックが入手したお金の話を聞きつけたハックの父親が、セント・ピータースバーグに戻ってきます。ハックの父は、極悪人でした。ハックのお金を受け取る権利を欲がった父親は、無理やりハックを捕まえ、ミシシッピ川のほとりにある小屋に閉じ込め、一緒に生活を始めます。

しかしハックは、いつか父親がお金のために自分を殺すのではないかとおびえ、ついに逃亡を決意します。

Every evening, he was very drunk. And every evening he hit me. He shouted at me.
‘You’re not my son! You’re the Spirit of Death!’ he shouted one evening. ‘You want to kill me. But I’m going to kill you!’
Every day, my father was worse. Every day I was more afraid. ‘He will kill me soon,’ I thought. I had to escape from the cabin!

*日本語訳(拙訳)*
毎晩、父さんはひどく酔っていた。そして毎晩ぼくを殴って、どなりつけた。
「お前は俺の子じゃねえ! お前は死神だ!」と、ある晩、父さんはわめいた。「お前は俺を殺したいんだろ。だがな、俺がお前を殺してやるよ!」
父さんの様子は日に日に悪化していって、ぼくはどんどん怖くなっていった。「もうじき殺されてしまう」とぼくは思った。この小屋から、逃げ出さなくちゃ!

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.19.

まんまと小屋から逃げおおせたハックは、見つけたカヌーに乗り込んで、広大なミシシッピ川に漕ぎ出します。そしてそのままセント・ピータースバーグを離れて、川を下っていきました。

あらすじ③:ハック、黒人の逃亡奴隷ジムと遭遇する

セント・ピータースバーグから、ミシシッピ川を南に3マイルほど下って行くと、ジャクソン島(Jackson’s Island)という小さな無人島があります。ここは、『トム・ソーヤー』でトムやハックが海賊ごっこをした、思い出深い場所でもあります。

ハックはジャクソン島に上陸し、カヌーを茂みに隠しました。しばらくジャクソン島に潜んで、夜になったら旅に出るという計画です。逃亡は、人目につかない夜が最適です。

しかし、無人島のはずのジャクソン島で、ハックは人の気配を察知します。誰かが料理をしている香りが漂ってきたのです。

I walked very carefully towards the fire. Then I wasn’t frightened any more. There was somebody else on Jackson’s Island. But it wasn’t my father. It was Jim, Miss Watson’s slave. Jim was my friend.

*日本語訳(拙訳)*
おそるおそる、ぼくは火の方へ近づいていった。そうしたら、怖いことなんかなかったんだ。ジャクソン島には、確かに、ぼく以外の誰かがいた。でもそれは、父さんじゃなかった。ワトソンさんの奴隷の、ジムだったんだ。ジムはぼくの友達だ。

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.21.

ハックは、ジム(Jim)を知っていました。

ハックが世話になっていたダグラス夫人には、ワトソンさん(Miss Watson)という姉(※年齢不明。妹の可能性あり)がいました。ワトソンさんは、黒人奴隷を所有しており、それが今回ジャクソン島で思いがけず出会ったジムだったのです。

ワトソンさんとジムは、ダグラス夫人やトムと同じ家で一緒に暮らしていました。そのため、ハックはジムのことをよく知っており、ジムのことが大好きでした。

あらすじ④:ハックとジム、一緒に逃亡することを決意する

ハックがほっと胸をなでおろした一方で、ジムはひどくおびえます。

なぜなら、アメリカ南部の「奴隷州」であるミズーリ州では、逃亡奴隷をみつけたら捕まえて所有者の元へ連れ戻すのが法律だからです。

‘Huck!’ he said. ‘Huck, please don’t tell anybody about me. I’m a runaway.
‘Have you run away from Miss Watson, Jim?’ I asked. ‘Why? She reads the Bible all day, but she’s not a bad person.’
She is going to sell me, Huck,’ Jim replied. ‘She’s going to sell me a slave trader from New Orleans. I heard them talking about me this morning. The man said, “I’ll give you $800 for your slave!” But I don’t want to go to New Orleans, Huck. The slaves there have terrible lives.’

*日本語訳(拙訳)*
「ハック!」とジムは言った。「ハック、お願いだから、私のことは誰にも言わないでくれないか。私は逃亡奴隷なんだ。
「ワトソンさんのところから逃げてきたのかい、ジム?」と、ぼくは尋ねた。「どうしてまた? ワトソンさんは一日じゅう聖書ばかり読んでいるけど、悪い人じゃないよ」
ワトソンさんは、私を売ろうとしているんだよ、ハック」と、ジムは答えた。「ニューオーリンズから来た奴隷商人に売ろうとしているんだ。今朝、二人が話しているのを聞いたんだよ。奴隷商人の男が、『あなたの奴隷は、800ドルになりますな』と言ってたんだ。でも、私はニューオーリンズには行きたくないんだよ、ハック。そこの奴隷は、ひどい生活を送ってるんだ」

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.22.

それを聞いたハックは、自分も父親から逃げてきたことを話します。もうセント・ピータースバーグに戻るつもりはないから、ジムを連れ戻すこともない。だから安心するように、ジムに伝えます。

ジム、ぼくたちは、二人とも、逃亡者だ。(Jim, we’re both runaways.)」(p.23)

と、二人で協力して逃亡することに決めたハックとジム。

二人は、まずいかだでミシシッピ川を南に下り、ミシシッピ川がオハイオ川と合流するカイロ(Cairo)で蒸気船に乗り換えて、今度はオハイオ川を北上し、北東部の「自由州」を目指すという計画を立てます。

St Petersburg, slave states, free states, huckleberry finn, ハックルベリー・フィン

セント・ピータースバーグ(★)と、1846年時点でのアメリカの自由州(水色)と奴隷州(赤)。
(WikipediaのSlave states and free statesのページの画像を元に作成)

ハックとジムの、命がけの冒険が始まったのです。

SPONSORED LINK

『ハックルベリー・フィンの冒険』の感動ポイント 3選

『ハックルベリー・フィンの冒険』の一番の見どころは、やはり白人のハックと黒人のジムの人種を超えた友情です。

いまから150年前のアメリカ南部、1846年のミズーリ州は、奴隷が家畜同然の世界です。現在の感覚からすると「なんて野蛮な世界・・・」と思ってしまいますが、当時のアメリカ南部社会ではそれが当たり前の社会通念でした。

そんな価値観が支配的な世界で、白人と黒人がお互いの人格という、見た目ではなくて本質的な部分を尊重しあって助け合うという、勇気と奇跡にとても心打たれるのです・・・!

感動ポイント①:心優しい「黒人奴隷ジム」の人間性

『ハックルベリー・フィン』でのジムは、まさに聖人君主のように見えます。

ハック自身も、ジムの人間的な素晴らしさについて語っています。ジムのことが、人として大好きだったからこそ、ハックも人種に関する固定観念を乗り越えることができたのだと思います。

I liked Jim. He was a good man. He always told the truth and he trusted people. People often told him lies, but he always believed them. He was very kind.

*日本語訳(拙訳)*
ぼくはジムが好きだった。ジムはいいやつなんだ。ジムは決して嘘を言わないし、みんなのことを信頼してた。みんなはよくジムに嘘をついていたけど、ジムはいつもそれを信じてた。ジムは、本当に心の優しいやつなんだ。

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.23.

また、ジムの優しさが垣間見える、こんなシーンもあります。

ハックとジムがジャクソン島から出発しようと予定していた日に、嵐が起こってミシシッピ川が氾濫します。翌朝、氾濫は落ち着いたものの、倒壊した建物やボートなどの破片がジャクソン島に流れてきて、その被害の大きさを物語っていました。二人が上流から流れてくるものを眺めていると、なんと家がまるまる一軒流れてきたのです!

ジムはカヌーでその家に乗り付け、中からお金や食べ物などを調達しました。

ハックも、家の中に入ってみたいと言いますが、ジムはそれを許しません。

‘I want to go in there too, Jim,’ I said.
‘No, Huck!’ Jim said quickly. ‘Don’t go in there. There is a dead man in there. Somebody has shot him!’
‘I’ve seen many dead people, Jim,’ I said.
Suddenly, there were tears in Jim’s eyes.
‘Please, Huck,’ he said. ‘Listen to me. You mustn’t go in there. Please trust me.’

*日本語訳(拙訳)*
「ぼくも中に入ってみたいな、ジム」と、ぼくは言った。
「だめだ、ハック!」と、ジムは急いで言った。「中に入ってはダメだ。死体があるんだ。銃で撃たれてる。」
「死体なんて今までたくさん見てきたよ、ジム」と、ぼくは言った。
ふいに、ジムの目に涙が浮かんだ。
「頼むよ、ハック」と、ジムは言った。「いいかい、君は中に入ってはいけない。どうか私を信じてくれ。」

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.26.

目に涙を浮かべてハックを止めるところに、ジムの心の美しさが、にじみ出ていると思います・・・!

感動ポイント②:白人としてのハックの葛藤

とはいえ、例えどんなにジムが素晴らしい人格の持ち主であろうとも、その時代の支配的な社会通念に対抗しようとするのは、普通の人にはとても難しいことです。

ましてやハックはまだ14歳の少年です。

ハックはジムのことが大好きで、ジムのことを友達だと思っているけれど、自分が本当に正しいことをしているのかと悩みます。

次の引用は、ジャクソン島をいかだで出発してから5日ほど経ったある晩に、ジムが、「このまま行けば、私はもうすぐ自由になれる。この恩は一生忘れないよ」とハックに語った後のシーンです。

There were tears in Jim’s eyes. He was happy. But I was worried. Was I doing the right thing? Jim was Miss Watson’s property. Was I stealing him from her? I was poor, but I was a white person. I was helping a black slave. I was breaking the law. I thought about it for a while. But I liked Jim. He had always been kind to me. I liked him better than my father. I liked him better than most white people. I was breaking the law, but I didn’t care.

*日本語訳(拙訳)*
ジムの目には涙が浮かんでいた。とても嬉しそうだった。でも、ぼくは不安だった。ぼくがしていることは、正しいことなんだろうか。ジムはワトソンさんの所有物だ。ぼくは、ワトソンさんからジムを盗もうとしていることになるんじゃないだろうか。ぼくは貧乏だけど、白人だ。ぼくは、黒人奴隷に協力している。法律に反することをやっている。ぼくはしばらく、このことについて考えた。でも、ぼくはジムが好きだ。ジムはいつでも、ぼくによくしてくれた。父さんよりもジムの方が好きだし、そのへんの白人よりもジムが好きだ。ぼくは、法律を破ろうとしている、けれど、気にすることなんてないんだ。

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, p.30.

南北戦争前のアメリカ南部の白人だったら、ハックのように黒人の逃亡を助けるなどという犯罪行為をあえて行う人は、ほとんどいないでしょう。

当時の社会規範を認識しつつ、だからこそ葛藤しつつも、でも、「ジムは本当にいいやつだし、ぼくはジムのことが好きだから助けたい」と自分の信念を貫くことができる、ハックの心の優しさと強さに感動します・・・!

感動ポイント③:ハックだったからこそ成り立ったストーリー

『ハックルベリー・フィン』のなかには、ハックとジムが、奴隷制の問題について語り合う場面があります。

‘We don’t have a king in America, Huck,’ Jim said.
‘No, Jim,’ I said. ‘The countries in Europe have kings and prices and dukes. We don’t have them in America. They’re old-fashioned ideas. We have different ideas in America now. Mrs Douglas sent me to the school in St Petersburg. I learnt about kings and princes and dukes there. Seventy years ago, the King of England was our king too. But we don’t have a king now. America has a president now. Presidents are much better than kings.’
‘Do people own slaves in Europe, Huck?’ Jim asked.
I thought for a moment.
‘No, Jim, people don’t have slaves in Europe any longer,’ I said. ‘Black people have freedom there.’
‘I understand you, Huck,’ said Jim. ‘Freedom is an old-fashioned idea!

*日本語訳(拙訳)*
「アメリカに王様はいないよな、ハック」と、ジムは言った。
「そうだね、ジム」と、ぼくは言った。「ヨーロッパの国々には、王様や王子や大公がいる。アメリカにはいない。そういったものは、古くさい考え方なのさ。アメリカは、いまは違う考え方をしてるんだ。ダグラス夫人が、ぼくをセント・ピータースバーグの学校に入れて、ぼくはそこで、王様や王子や大公について学んだ。70年前は、イギリス国王がぼくたちの王様でもあったんだけど、いまはぼくたちには王様はいない。アメリカには、いまは大統領がいる。大統領の方が王様よりもずっといいんだよ」
「ヨーロッパの人たちは、奴隷を所有しているのかい、ハック?」と、ジムは尋ねた。
「ううん、ジム、ヨーロッパでは、もう奴隷を所有している人はいないよ」と、ぼくは言った。「黒人たちは、ヨーロッパでは自由だ」
「わかったよ、ハック」と、ジムが言った。「自由は、古くさい考え方なんだな!

Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn, Macmillan Education, 2005, pp.30-31.

うわあああ、「自由の国アメリカ」に対する痛烈な皮肉ですね!

ここをなんで引用したかというと、「自由は、古くさい考え方なんだな!」って最後につなげるのが、うまくて好きなのと、もう一つ。

ハックが学校に行って真面目に勉強したからこそ、

こういうことが言えるようになったんだなあ
(※こういうこと=自国の歴史や統治機構といったインテリ風なトピック)

と、彼の成長を感じて感慨深くも思えるし、その反面、

こういうことを言うようになってしまったのか・・・
(※こういうこと=アメリカが一番優れている!アメリカ万歳!的なこと)

ともとらえられる重要なシーンだからです。

学校教育は、体系的な知識を得られるが大きなメリットです。しかしその反面、教育は、その時代・その社会で支配的な思想に影響下にあります。そのため、教育を受けると同時に、ある種の洗脳を受けることは免れません。

とはいえ、だから「教育は悪い、気をつけろ!」とかではないんです。教育は、国や社会や家族やあるコミュニティへの愛着を育むシステムなので、「そういうもの」だし、間違いなく「必要なもの」なんですよね。でも、教育に「人種差別意識」などの他者に悪意を向けるような思想が含まれていると、後世から見ると、その時代の教育は「野蛮なもの」のように見えてしまいます。

『トム・ソーヤー』の時のハックは、教育を受けていませんでしたし、大人の白人たちからは煙たがられるセント・ピータースバーグの「はみ出しもの」でした。ハックは身体は白人ですが、精神や思想は白人とは異なっていたのです。

しかし、『トム・ソーヤー』後、ダグラス夫人の元で、ハックも、他の子供と同じような生活を始めました。学校や教会にも通い始めました。そのため、教育によって、ハックの精神の「白人化」が進みつつあったと、言えるでしょう。

とはいえ、それでもハックが他の白人と比べて柔軟な思想を持ち続けていたのは、

  1. もともと学校にも教会にも行かないで気ままに暮らしていたので、教育を受ける機会が少なくてアメリカ南部社会に染まり切っていなかった。
  2. ハックは言わば下層階級なので、白人の大人たちから差別を受けていた。だから「差別される側」の気持ちが理解できた。
  3. 人に優しくされるという経験があまりなかったので、人種というよりも、「自分に優しくしてくれたどうか」で人を判断していた。
  4. 白人社会から逃亡したため、その社会のルールに従う必要性があまりなかった。(居場所を失う恐れがない)
  5. 父親(白人代表)が最低野郎だった。

といった、生い立ちやこれまでの人生の下地があったからだと思います。

実際問題、『ハックルベリー・フィンの冒険』は、ハックだったから成り立つ物語であって、もしもジャクソン島でジムに出会ったのがトムだったら、普通に通報して、ジムをピータースバーグに連れ戻して、物語は終わっていたと思います(笑)。

決して、トムが酷いやつって、言ってるわけじゃないですよ(笑)。それが「この社会の普通」だからです。

SPONSORED LINK

まとめ

マクミランリーダーズ, macmillan readers, beginner, level 2, the adventures of huckleberry finn, ハックルベリー・フィンの冒険

原作を読んでいないので確かなことは言えないのですが、たぶんジムは、原作では、「そいつはちげえねえだ!」みたいな、訛りのある話し方をしていると予想しています。(ほかのこの時代のアメリカ文学の傾向的に。笑)

ただ、マクミランリーダーズでは訛りまでは表現されていなくて、簡易な英語で書かれています。そのため、今回わたしの方で訳すときは、ひとまずハックとの違いがわかるようにだけを意識して、一人称を「私」にして大人な感じを出しています。

今回ご紹介したのは前半部分だけですが、このあと詐欺師の二人組が出てきたり、次から次へと事件が起こります。ハックとジムは無事に自由州にたどり着けるのか!?ジムは白人に見つかることなく、自由になることができるのか!?

そして、最後の伏線回収には、震えます・・・!

ぜひ、ご自分の目で確かめてみてください。

それでは、今日も素敵な一日を!

fummy

SPONSORED LINK
SPONSORED LINK