【ネタバレ注意】宮沢賢治『よだかの星』考察(解釈)・英語和訳。よだかは逃げたのではない。生き抜いたんだ!(ラダーシリーズ : Level 1)

東京のすみっこより愛をこめて。fummyです😊💡

英語多読100万語を目指して、多読を進めています!

今回取り上げるのは、「洋書ラダーシリーズ (Level 1)」版の、宮沢賢治の『よだかの星(The Nighthawk Star)』です。

まさか、宮沢賢治を英語で読むことになろうとは。読んだのは小学生ぶりくらいかもしれません。久しぶりに読んだら、学生時代の文系の血がたぎり始めて、いろいろ考えてしまいました(笑)。

『よだかの星』って、読み終えると、なんだかが残りませんか。大きくは以下の3つだと思うんですけど、作中には答えは明確に書かれていません。

『よだかの星』の3つの謎
  1. いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。
  2. 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。
  3. 「よだか」はどうして星になったのか。

というわけで、本記事ではこれらの3つの謎に対する考察(解釈)をまとめてみました! また、これらを考察した結果、この作品の根底にあるメッセージが浮かび上がってきたので、それも合わせてご紹介します^^

ちなみに今回は、「洋書ラダーシリーズ (Level 1)」版の『よだかの星(The Nighthawk Star)』から本文を引用して、宮沢賢治の素晴らしい原作を併記しながら、考察&解釈を書いていきます。ぜひ英語を復習しながら、宮沢賢治の美しい日本語も堪能してください!!

当然のことながら(というかすでに・・・)、ストーリーのネタバレをしていますのでご注意ください!

SPONSORED LINK

前提情報①:『よだかの星』について

宮沢賢治, Miyazawa Kenji, よだかの星, The Nighthawk Star, ラダーシリーズ, ladder series, 英語多読, Level 1, レベル1, 解釈, おすすめ

本題に入る前に、前提知識として、「今回取り上げる本」と、「作者の宮沢賢治」の情報をまとめておきます。(『よだかの星』の内容について早く知りたい方は、「前提情報」の項目は飛ばしてください)

まず、今回取り上げる本について。

今回取り上げる『よだかの星(The Nighthawk Star)』は、以下の本です。

本作は、宮沢賢治作の『よだかの星』を、英語学習者向けに簡単な英語に直したGraded Readers(GR)版であることにご注意ください!

とはいえ、原作と照らし合わせてみると、簡単な英語を使いながらも、かなりうまく訳されていることに気づきます。ひととおり英語で楽しんだ後に、宮沢賢治の美しい原作を堪能するのも二倍楽しめますよ^^

原作は青空文庫の以下のページで、無料で読むことができます!
宮沢賢治『よだかの星』(青空文庫)

英語多読者向けの『よだかの星』基本情報(総語数、英語レベル)

「ラダーシリーズ 」版の『よだかの星(The Nighthawk Star)』の基本情報(難易度など)は、以下の通りです。

『よだかの星(The Nighthawk Star)』の基本情報
  • 書名    : The Nighthawk Star
  • シリーズ: ラダーシリーズ (Level 1)
  • 収録作品: The Nighthawk Star
  • 総語数  : 2340語
  • ページ数: 37ページ(巻末の単語リスト除く)
  • 読みやすさレベル(YL):YL2.4

基本情報は、ラダーシリーズの公式ホームページを参考にしています。

このラダーシリーズ(レベル1)、本によって英語の難易度(文法・語彙)がぜんぜん違います…。全体的には、YL2.2〜3.3くらい。『よだかの星』はYL2.4なので、比較的易しく、読みやすいほうです。

ちなみに、わたしは英語多読30万語前後くらいのときに、ラダーシリーズ(レベル1)を読み始め、いきなり難しめの本(YL3.0以上)を手に取ってしまって、少し戸惑いました(笑)。でも、10冊くらい読むと、慣れて気にならなくなりますよ^^b

ラダーシリーズのYL(読みやすさレベル)については、実はまとまった情報が存在しません(2019年6月時点)。そのため、当ブログでは以下の質問掲示板の情報を参考にしつつ、わたしの体感でYLをつけていますのでご注意ください。
参考:  Re: 洋版のラダーシリーズのYLってどのくらいでしょうか?(英語多読研究会SSSの掲示板「YL・語数・書評システム情報」より)

SPONSORED LINK

前提情報②:作者の宮沢賢治について

宮沢賢治, Miyazawa Kenji, よだかの星, The Nighthawk Star, セロ弾きのゴーシュ, Gorsch the Cellist, 児童文学, 詩人, 日本の作家

宮沢賢治の写真(画像はWikipediaより)

宮沢賢治(1896-1933)は、日本の国民的童話作家です。

宮沢賢治のポイント
  • 代表作は、童話『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』、詩『雨ニモ負ケズ』など。
  • 岩手県花巻市出身。質屋の長男として生まれる。
  • 盛岡高等農林学校卒業後、地学者として農民のために働き、その一方で、短歌や詩、童話などの創作に励んだ。

故郷の岩手県をモチーフにした、美しく幻想的な世界観が宮沢賢治の作品の特徴ですよね。

余談ですが、宮沢賢治がつくった「イーハトーブ」という世界の名前は岩手県をもじってつけられたと聞いたときに、わたしも思わず、自分の出身地に「XXーXXースク」っていう名前をつけたのを思い出しました。(※黒歴史)

それでは、前提情報はこれくらいにして。
次項から『よだかの星』のあらすじとテーマを見ていきましょう!

SPONSORED LINK

『よだかの星』のあらすじ

まずは、よだかの行動原理や動機を把握するためにも、

  • 『よだかの星』の簡単なあらすじ
  • よだかがこれまでに経験してきた苦難

について、押さえておきたいと思います!

『よだかの星』の簡単なあらすじ

よだかは、見た目がとても醜いため、仲間の鳥たちから嫌われ、いじめられていました。特に「タカ(鷹)」は、「よだか(夜鷹)」の名に自分の名が含まれることが気に入りません。ついにはよだかに改名を要求し、改名しないと殺してやると脅すのです。

改名はしたくないけれど、このまま死にたくもない。よだかは、仲間の鳥たちの元を去ることを決意し、飛び立ちます。

よだかは遠く、はるか遠くを目指して飛びました。太陽、そして東西南北の星座たちのもとを目指します。しかしたどり着くことは叶わず、ついには力尽きてしまうのです。

それでも、よだかは満足げな表情で息を引き取りました。そして気づいた時には、よだかは青い光となって、夜空にこうこうと輝く星になっていたのです。

よだかの苦難①:嫌われ者のよだか

よだかはとても心優しい鳥なのですが、「見た目が醜い」と言う理由で、他の鳥たちから差別を受け、いじめられます。その醜い外見がいかほどかと言う描写がこちら。

Nighthawk was a very ugly bird. His face as if it had brown leaves stuck all over it. His beak was very flat and his mouth was so wide it reached round to his ears. He couldn’t walk around very well and then only for a few meters at a time. All the other birds felt bad when they saw his face.

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌(みそ)をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
足は、まるでよぼよぼで、一間(いっけん)とも歩けません。

ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合(ぐあい)でした。

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 p.3。

いくら宮沢賢治とはいえ、こんな悪口書くなんて、あんまりなんじゃないの?
よだかがかわいそうなんじゃないの?

と思って、よだかを調べてみたのですが・・・。

ヨダカ, ヨタカ, 夜鷹, Nighthawk

ヨダカの写真(画像はWikipediaより)

うーん、まあ、確かに、ちょっと、思った以上に、かわいくなかった。(笑)

よだかの苦難②:タカの理不尽な改名要求

鳥の中でも、特にタカは、よだかのことが気に入りませんでした。醜い「よだか(夜鷹)」の名前に、誇り高い「タカ(鷹)」の名が含まれていることが許せなかったのです。

そこでタカは、よだかに名前を変更するように強く迫るのでした。

“No, Mr.Hawk, I can’t. It’s impossible!”
“Impossible? No, it isn’t! Here’s a new name for you — ‘Ichizo’. That sounds good, eh? Ichizo … OK? Now, when you change your name, you have to tell all the other birds about the change. OK? You must wear a card around your neck with your new name on it. Then go round to see everyone and say, ‘From now on, I’m Ichizo!’ And don’t forget to bow.
“But I can’t do that …”
“Oh, yes you can. Just DO it! And if you don’t do it by the morning of the day after tomorrow, I will kill you! Yes, that’s right, I’ll KILL you! Remember that! I will go round to all the other birds’ nests one by one early that morning and ask them if you have been round. And if there is only one nest that hasn’t seen you, that’s the end of you!” (p.10) (p.3)

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
「鷹さん。それは無理です。」
「無理じゃない。おれがいい名を教えてやろう。市蔵(いちぞう)というんだ。市蔵とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露(ひろう)というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ市蔵と書いたふだをぶらさげて、私は以来市蔵と申しますと、口上(こうじょう)を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。
「そんなことはとても出来ません。」
「いいや。出来る。そうしろ。もしあさっての朝までに、お前がそうしなかったら、もうすぐ、つかみ殺すぞ。つかみ殺してしまうから、そう思え。おれはあさっての朝早く、鳥のうちを一軒(けん)ずつまわって、お前が来たかどうかを聞いてあるく。一軒でも来なかったという家があったら、もう貴様もその時がおしまいだぞ。」

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.8-10。

タカからの「名前を変えろ」という理不尽にはビックリしましたが、改名するにしても「市蔵」はないでしょ!(笑) 「種」の名前から「個人名」になってますけど!(笑)

心優しいよだかも、さすがにタカの理不尽な要求には抵抗し、「神様が下さった名前を変えるのは無理です」と訴えますが、タカは聞く耳を持ちません。

なぜ何も悪いことをしていないのに、こんなに嫌われてしまうんだろう・・・。

よだかは、鷹に殺される運命を憂いながら、夜空に飛び立ち、いつものように夜空を駆って虫を食べ始めました。

この「明日殺される」という切迫した状況での最後の晩餐が、よだかにとって、「命に関する重大な事実」に気づくきっかけとなったのです。

SPONSORED LINK

『よだかの星』のテーマ:生命の大切さ

ここからは、『よだかの星』の3つの謎について考えていきます。

『よだかの星』の3つの謎
  1. いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。
  2. 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。
  3. 「よだか」はどうして星になったのか。

特に一つめの、「よだかが仲間の元を去った理由」については、そのきっかけとなる重要な出来事がありました。それが、「明日殺される」という切迫した状況での最後の晩餐です。

よだかは、自分の死を意識したことによって、「命に関する重大な事実」に気づいたのです。

『よだかの星』のテーマ①:自分の命は、他の多くの命の犠牲の上に存在している

タカに改名要求を突きつけられ、「明日には殺されてしまう」という危機に陥ったその日の晩、よだかは、夜空を飛び回りながら、口に飛び込んでくる虫を食んでいました。

この時ふいに、「明日鷹に殺されて死ぬ運命である自分」が、「むやみに虫を殺している」ことに気づきます。

よだかを生かすために、虫たちはその命をよだかに捧げ、犠牲になってくれたはずです。しかし、よだかは明日には死ぬのです。「自分は虫たちの命を無駄にしてしまっているのではないか」ということに思い至り、よだかは泣き出します。

Nighthawk flew up into the sky again. Another beetle went into his mouth. It was not easy to swallow — it scratched his throat as it went down. Nighthawk’s heart seemed to jump. He began to cry loudly as he flew round and round in the sky.
“Ah, I kill so many bugs every night,” he thought. “There’s only one of me, but this time I’m the one who’s going to be killed … by Hawk! Ah, that is so hard, so sad.** What can I do? Maybe I should stop eating the bugs and starve … No, Hawk would kill me before that … I know! Before that happens, I will fly away — far, far away …”

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
 また一疋の甲虫が、夜だかののどに、はいりました。そしてまるでよだかの咽喉をひっかいてばたばたしました。よだかはそれを無理にのみこんでしまいましたが、その時、急に胸がどきっとして、夜だかは大声をあげて泣き出しました。泣きながらぐるぐるぐるぐる空をめぐったのです。
(ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫をたべないで餓(う)えて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.14-15。

よだかは単に「タカに明日殺されてしまうことが辛く悲しい」、「だから逃げたい」と考えているわけではないのです。

自分はたくさんの虫の命を犠牲に生き長らえている。しかし、たくさんの生命の上に、たった一つ生かされている自分の命は、明日タカによって奪われてしまう。

自分のために命を捧げてくれた虫たちの命を、完全に無駄にして、何もできずにただ無意味に死んでしまうこと

が、よだかにとっては耐え難いほどに悲しく辛いのです。

つまりこの時に、よだかには以下のような価値観が芽生えたと言えます。

よだかの命に関する価値観
  • 自分の命は、他の多くの命の犠牲の上に存在している
  • 命を無駄にしてはいけない

このよだかの価値観は、物語の別の箇所にも表れています。

『よだかの星』のテーマ②:命を無駄にしてはいけない。

数多くの命の犠牲の上に成り立っている「自らの命を無駄にしない」ために、よだかは旅立つことを決意します。

旅立つ直前、よだかは兄弟のカワセミに会い、自分がこれから遠くに行こうとしていることを告げます。その際にカワセミに告げた言葉に、よだかが命を大切に思い、絶対に無駄にしたくないと考えていることが現れています。

“Well,” said Nighthawk, “It’s just that I’m plannig to go somewhere a long way away, and I wanted to see you before I left.”
“Oh no, brother, please don’t go away! Hummingbird also lives far away. If you go as well, I’ll be left here all alone!”
“Please don’t say any more,” replied Nighthawk. “It can’t be helped. I just want to say that in future I hope you won’t catch any fish just for fun. Only catch the ones you really need to catch. Got it? Good-bye!”
“What’s the matter with you, brother? Please don’t go yet!”
“No, nothing will change if I stay any longer. Please give my best wishes to Hummingbird. I will never see you again. Good-bye.”

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
「いいや、僕は今度遠い所へ行くからね、その前一寸(ちょっと)お前に遭(あ)いに来たよ。」
「兄さん。行っちゃいけませんよ。蜂雀(はちすずめ)もあんな遠くにいるんですし、僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」
「それはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉(く)れ。そしてお前もね、どうしてもとらなければならない時のほかはいたずらにお魚を取ったりしないようにして呉れ。ね、さよなら。」
「兄さん。どうしたんです。まあもう一寸お待ちなさい。」
「いや、いつまで居てもおんなじだ。はちすずめへ、あとでよろしく云ってやって呉れ。さよなら。もうあわないよ。さよなら。」

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.17-18。

よだかがカワセミに言った、「自分が生きるため以外には、いたずらに魚をとってはいけない」という言葉。ここに、よだかの「命に関する価値観」が強く表れているのが見て取れると思います。

よだかの命に関する価値観
  • 自分の命は、他の多くの命の犠牲の上に存在している
  • 命を無駄にしてはいけない

SPONSORED LINK

よだかはなぜ星を目指したのか?

それでは改めて、ここからは、『よだかの星』の3つの謎について考察していきたいと思います!

『よだかの星』の3つの謎
  1. いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。
  2. 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。
  3. 「よだか」はどうして星になったのか。

まずは、一つめです。

『よだかの星』の3つの謎①
  • いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。

鷹に無意味に殺されるなどという、「命を無駄にしてしまう」事態を避けるために、よだかは旅立つ決意を固めたということは、すでに見てきました。

では、なぜよだかは、あえてはるか彼方の星を目指したのでしょうか。

命を無駄にしない二つの方法

よだかが、単に「遠い場所」ではなく「星」を目指さなくてはならなかった理由を考察するためには、そもそも「命を無駄にしない」とはどういうことなのかを考える必要があります。

作品中の描写などから考えてみると、「命を無駄にしない方法」については、以下の2種類の方法があると言えます。

命を無駄にしない2つの方法
  1. 生(寿命)を全うする
  2. 誰かの役に立つなど、自分の生に意味を持たせる

「生(寿命)を全うする」ためだけなら、星を目指す必要はない。

命を無駄にしない2つの方法①
  • 生(寿命)を全うする

よだかは、カワセミに「いたずらに魚を取らないように」と諭しましたが、この言葉は、裏を返すと、生きるために必要な魚を取ることに関しては許容していたということです。

そのため、生きるために他の命を奪い、自らの命をつないで「生(寿命)を全うすること」は、よだかにとっては「命を無駄にしない」ことだったと言えるでしょう。

でも、単純に生(寿命)を全うするだけであれば、なにも星を目指す必要はないですよね。究極的に言えば、自殺さえしなければいいわけです。残虐な鷹の爪の届かないはるか遠くに逃げて、一人でも穏やかな余生を過ごせばいいのです。

しかし、よだかが実際にとった行動は、「星を目指すこと」でした。

これは、平穏な生活とは対極の行動と言えます。

過激な言い方をすれば、死にに行くようなものです。

なぜ、よだかは星を目指さなければならなかったのか。

それは、穏やかに「生(寿命)を全うする」ことの大切さを認識しながらも、よだかが「自分の生に意味を持たせたい」という願望を持ってしまったからだと考えられます。

よだかは「自分の生に意味を持たせる」ことを切望した。

命を無駄にしない2つの方法②
  • 誰かの役に立つなど、自分の生に意味を持たせる

よだかが「自分の生に意味を持たせたい」という願望を持っていたことは、よだかが仲間たちの元を離れて旅立ったときに、一番初めに太陽を目指して飛んだシーンに表れています。

“Mr. Sun, Mr. Sun!” he cried out. “Please take me to you place! I don’t mind being burnt to death. Even an ugly body like mine will give out a little light when it burns. Please take me to your place!”
Nighthawk flew and flew and flew, but Sun didn’t come any closer. In fact, he seemed to be getting smaller and smaller and farther and farther away.
“You’re Nighthawk, aren’t you?” Sun said. “I see. You must be having a very hard time down there. Why don’t you fly to the night sky and say the same things to the stars? Because I know you’re a night bird, not a day bird.”

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼(や)けて死んでもかまいません。私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。」
 行っても行っても、お日さまは近くなりませんでした。かえってだんだん小さく遠くなりながらお日さまが云いました。
「お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度そらを飛んで、星にそうたのんでごらん。お前はひるの鳥ではないのだからな。」

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.20-22。

このように、よだかは「私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出す」というところに、自分の生に意味を持たせる希望を抱いているのです。

「自分の生に意味を持たせたい」という願望は、おそらくよだかが潜在的に抱いていたもので、死に直面したことで一気に噴き出してきたものだと考えられます。

それは、よだかの以前からの行動に表れています。

よだかの潜在的な願望は、「一度でいいから他人の役に立って、自分の生の意味を実感したい」

よだかはもともと、他人のためになる行為を自然に行うことができる、心優しい鳥でした。

しかしよだかは嫌われ者。これまで生きてきて、よかれと思ってやったことが、醜い姿のために裏目に出てしまうことばかりだったのです。

例えば、巣から落ちたメジロの子供を助けてやった時も、よだかは感謝されるどころか、犯罪者を見るような、冷たい目で見られます。

“Why does everyone hate me so much? I know my face looks as if it has brown leaves stuck all over it and my mouth is so wide it reaches round to my my ears. But I’ve never done anything bad. I found one of Mrs. White-eye’s babies the other day that had fallen out of its nest. I picked it up and took it home. But I remember Mrs. White-eye’s face as she took her baby from me. It was just as if i was a thief or something. She laughed at me! And if I had to wear a card with the name ‘Ichizo’ on it round my neck, oh, how sad I would feel!”

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
(一たい僕(ぼく)は、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。僕の顔は、味噌をつけたようで、口は裂さけてるからなあ。それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。赤ん坊(ぼう)のめじろが巣から落ちていたときは、助けて巣へ連れて行ってやった。そしたらめじろは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなしたんだなあ。それからひどく僕を笑ったっけ。それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.11-12。

よだかにとっては、こうしたことが日常茶飯事だったと想像がつきます。つまり、これまで生きてきて、よだかは「自分が人の役に立った」という実感を持てたことがないのです。

人は他人から感謝されたり褒められたり、笑顔で受け入れられたりすることによって、自分の存在する意味を感じたり、自分がした仕事に意義を感じたりします。「自分が人の役に立った」という実感を持てたことがないということは、すなわち、「自分の生に意味がある」ことを実感できたことがないということにもつながります。

よだかにとっては、「自分が嫌われること」も、「誰の役にも立てないこと」も当たり前だったため、これまでは半ば諦めの気持ちでいたかもしれません。

しかし、死に直面したことで、よだかは、

「自分は多くの他人の命によって生かされている」のにも関わらず、
「自分の命がただの一度も、誰の役にも立てないまま、明日突然死ぬ」

という事態が、簡単に起こりうることにショックを受けたのではないでしょうか。

この時に、よだかの「何もできずにこのまま命を無駄にするのはいやだ」一生に一度だけでも「自分の生に意味を持たせたい」という切実な願望が、一気に噴き出しました。

だからこそ、よだかは星を目指し、自分の生に意味を持たせる方法を、必死に求めたのです。

『よだかの星』の3つの謎①
  • いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。
    「自分の命に意味を持たせる」方法を必死に求めたため。

SPONSORED LINK

よだかはなぜ満足げに死んだのか?

次に、『よだかの星』の3つの謎の2つめです。

『よだかの星』の3つの謎②
  • 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。

物語の最後で、よだかは、満足げな表情を浮かべて息絶えます。

「自分の命に意味を持たせる」という望みが叶ったのでしょうか?

よだかの望みは叶わなかった。

よだかはお日さまに「星にたのんでごらんなさい」と言われてから、冬の空の星座を目指して飛びます。しかし、星たちはそんなよだかに目もくれません。

例えば、南のおおいぬ座(Canis Major, the Great Dog)に、よだかは以下のようにあしらわれます。

“Mr. Star!” he shouted. “Mr. Blue Star of the South! Please take me to your place. I don’t mind being burnt to death!”
Great Dog was very busy. The colors of his beautiful coat were shining — blue and purple and yellow.
“Don’t be so silly!” he said to Nighthawk. “Who on earth do you think you are? You’re only a bird. It would take billions, trillions, billions of trillions of years to reach here with your wings!” And he turned to look the other way.

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
「お星さん。南の青いお星さん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
 大犬は青や紫(むらさき)や黄やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。
「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが鳥じゃないか。おまえのはねでここまで来るには、億年兆年億兆年だ。」そしてまた別の方を向きました。

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.25-26。

よだかは、こんなやり取りを東西南北、それぞれの方位の星たちと行い、ことごとく相手にされないか、断られてしまいます。それでもよだかは、諦めずに星を目指して飛びました。しかし、飛んでも飛んでも、星との距離は一向に縮まらないのです。そして、ついには力尽きてしまいます。

よだかが決してあきらめず、必死に飛び、必死に命を燃やす様子には、心が打たれます。なので、ちょっと長めに引用します。

Nighthawk flew up and up, straight through the sky … further and further.
By now the evening glow only looked like the end of a cigarette.
Nighthawk kept climbing …
Up and up he went …
Before long, it was so cold, his breath began to freeze. He had to move his wings more and more as the air became very thin.
But all the stars seemed to stay the same size …
Nighthawk was now breathing hard. The cold cut through him like a knife. He couldn’t feel his wings any more. His eyes were full of tears as he lifted his head to look up at the sky again …
Yes, that’s right … That was the end of Nighthawk.
He no longer knew if he was falling or climbing, looking down or looking up. But now he was feeling very calm. There was some blood coming from his big mouth, but it seemed to wear a little smile

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻すいがらのくらいにしか見えません。よだかはのぼってのぼって行きました。
 寒さにいきはむねに白く凍(こお)りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
 それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜(しも)がまるで剣のようによだかを刺さしました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。もうよだかは落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居おりました。

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.31-35。

よだかは結局、星にたどり着くことはできませんでした。
志なかばで力尽き、最後を迎えたのです。

しかし、よだかの心はやすらかで、口元は少し笑っていました。

「自分の生に意味を持たせる」という望みは叶わなかったのに、なぜこんなにも満足げな表情を浮かべたのでしょうか。

よだかは精一杯生き抜き、生(寿命)を全うすることができた。

よだかは「自分の生に意味を持たせる」ことを切望して星を目指しましたが、結局は叶いませんでした。しかし一方で、そのためにできることはやり尽くしました。最初にお日様、次に西のオリオン座、そして南のおおいぬ座、北のおおぐま座、東のわし座を目指すという挑戦をしました。そして、自分の力を全て出し尽くし、その命を焼き尽くしました。

よだかは、精一杯生き抜いたことで、「生(寿命)を全うする」という「命を無駄にしない」方法の一つを意図せずクリアしていたのです。

命を無駄にしない2つの方法
  1. 生(寿命)を全うする
  2. 誰かの役に立つなど、自分の生に意味を持たせる

「自分の生に意味を持たせる」という願いを叶えるために、できることを全てやり尽くし、精一杯生き抜いて命を燃やし尽くしたからこそ、よだかはたった一晩で「生(寿命)を全うする」ことを成し遂げたのです。

そして、「生(寿命)を全うできた」という実感を得られたから、よだかは満足げだったのです。

『よだかの星』の3つの謎②
  • 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。
    精一杯生き抜き、「生(寿命)を全うできた」という実感を得られたから。

SPONSORED LINK

よだかはなぜ星になれたのか?

最後に、『よだかの星』の謎の3つめです。

『よだかの星』の3つの謎③
  • 「よだか」はどうして星になったのか。

よだかが星になったのは、よだかが精一杯生き抜いたことの結果だと言えます。

精一杯生き抜き、命を燃やし尽くしたからこそ、よだかは星になった。

力尽きて息絶え、地に落ちたかに思えたよだかでしたが、いつしか自分が青白い光になって燃え、星になっているのに気づきます。

After a while, Nighthawk opened his eyes wide. He saw that his body had become like a beautiful shining blue light. It was quietly burning. He was right next to Cassiopeia. And he could also see the pale light of the Milky Way.
Nighthawk’s star continued burning … On and on it burned …
And it is still burning today.

*日本語訳(青空文庫『よだかの星』より)*
それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐(りん)の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。

宮沢賢治『The Nighthawk Star(よだかの星)』IBCパブリッシング、2005年 pp.36-37。

よだかはもともと、「星になりたい」なんて大それた結果を求めていたわけではありませんでした。自分が星になれるなんて思っていません。ただ星のそばに行き、「燃え尽きて死にたかった」のです。

今まで誰の役にもたった経験がなく、「自分の生に意味がある」という実感が得られなかったからこそ、「燃え尽きて死ぬ」ことで、一生に一度だけでも「自分の生に意味がある」という実感を得たかったのです。

だからよだかは、「自分の生に意味を持たせる」ことを心の底から求め、できることを全てやり尽くし、全ての力を使い果たしました。

その結果、たった一晩で「生(寿命)を全うする」ほどに、精一杯生き抜いて、命を燃やし尽くしたから、星になれたのです。

そしてこれは、ただぼうっと生きているだけでは決して叶わなかったことです。「自分の生に意味を持たせたい」という心の底からの渇望があったからこそ、成し得たのだと思います。

『よだかの星』の3つの謎③
  • 「よだか」はどうして星になったのか。
    → 「自分の生に意味を持たせる」ことを心の底から求め、できることを全てやり尽くし、たった一晩で「生(寿命)を全うする」ほどに、精一杯生き抜いて、命を燃やし尽くしたから。

SPONSORED LINK

まとめ:後悔のない生を生きるために。

宮沢賢治, Miyazawa Kenji, よだかの星, The Nighthawk Star, ラダーシリーズ, ladder series, 英語多読, Level 1, レベル1, 解釈, おすすめ

『よだかの星』にまつわる3つの謎に関して考察してきました。まとめると、以下のような感じになります。

『よだかの星』の3つの謎
  1. いじめられっこの「よだか」は、どうして仲間の元を去って星を目指したのか。
    「自分の命に意味を持たせる」方法を必死に求めたため。
  2. 「よだか」はどうして死に際に満足げな表情を浮かべていたのか。
    精一杯生き抜き、「生(寿命)を全うできた」という実感を得られたから。
  3. 「よだか」はどうして星になったのか。
    → 「自分の生に意味を持たせる」ことを心の底から求め、できることを全てやり尽くし、たった一晩で「生(寿命)を全うする」ほどに、精一杯生き抜いて、命を燃やし尽くしたから。

よだかは、できる限りのことはやり尽くし、精一杯生き抜いた結果、最後は星になりました。今でもこの地上を照らしてくれているのですから、結果的には報われたと言えます。また、死後ではありますが、「自分の生に意味を持たせる」という望みが叶ったとも言えます。

しかし、実際の人生では、頑張ったからといって、報われるかどうかはわかりません。また、死後に願いが叶ったとしても、それを本人が知ることはできません。

でも、諦めずにできる限りの挑戦をやり尽くし、精一杯生き抜くことはできる。

「自らの生に意味を持たせる」ことはできるかわからないけれど、「生を全うする」ことはできる。

人生の最後の日に、満足げに口元に笑みを浮かべて、心穏やかに逝くことができる。

それこそが、たくさんの犠牲の上に授かった命を無駄にしないこと。

だから、報われるかなんてわからなくても、諦めるな。

思いつく限り、できることはやり尽くせ。

精一杯生き抜け。

これが、この作品の根底にあるメッセージなのです。

それでは、今日も素敵な一日を!

fummy

SPONSORED LINK
SPONSORED LINK