東京のすみっこより愛をこめて。fummyです😊💡
英語多読100万語を目指して、多読を進めています!
今回取り上げるのは、「Compass Classic Readers (Level 1)」版の、オスカー・ワイルド作『幸福な王子(The Happy Prince)』です。
中身は「幸福な王子」と「忠実な友達」の短編二本立てですが、特に「幸福な王子」は、童話集などにもよく収録されているので、幼い頃に読んだという方も多いのではないでしょうか。
各短編について、あらすじ、本作品の見どころ・テーマなどを、本文を引用して日本語訳をつけながら紹介していきます!
ちなみに、わたしが個人的に、オスカー・ワイルドのことが、結構病的に好き(笑)なため、比較的、手厚く語っています。
というわけで、英語を復習しながら、
- オスカー・ワイルド作品の「美しさ」と「容赦ないリアリティ」の中毒性
- 「幸福な王子」で、他人のために命を落としたツバメは、本当にかわいそうなの?
- 友だちには尽くさなければならないの? 真の友だちっていったい何?
というポイントを意識して、ワイルド作品の世界観や、二つの作品のテーマを思い出していただけたらな、と思っています^^
各作品のネタバレをしていますので、ご注意ください!
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前提情報①:『幸福な王子(The Happy Prince)』について

今回取り上げる『幸福な王子(The Happy Prince)』は、以下の本です。
原書ではなく、Graded Readers(GR)版であることにご注意ください。
とはいえ、「幸福な王子」も「忠実な友達」も原作が短編。
元々のストーリーが短く簡潔なため、本書もかなり忠実に原作を再現しています。また、オスカー・ワイルドの表現の美しさも随所に取り入れられていて、この本だけでも原作の良さを十分に味わうことができます!
英語多読者向けの『幸福な王子』基本情報(総語数、英語レベル)
本書の基本情報(難易度など)は以下の通りです。
- 書名 : The Happy Prince
- シリーズ: Compass Classic Readers(Level 1)
- 収録作品: The Happy Prince, The Devoted Friend
- 総語数 : 3839語
- CEFR : A1
- 読みやすさレベル(YL):YL2.6-2.8
難易度のご参考までに、わたしは英語多読20万語〜30万語の間くらいのレベルでこのシリーズ(CCR レベル1)を読んでいますが、特につまづくことなくスムーズに読めています!
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前提情報②:作者のオスカー・ワイルドについて

オスカー・ワイルドの写真(画像はWikipediaより)
オスカー・ワイルド(Oscar Wilde, 1854-1900)は、アイルランド出身の詩人、作家、劇作家です。
- 代表作は、短編『幸福な王子』、長編『ドリアン・グレイの肖像』、劇『サロメ』、など。
- オックスフォード大学を首席卒業の超秀才(※専攻は古典文学)
- 結婚し2人の息子もいたが、同性愛者。
- 男色の罪で投獄され、のちに解放されるも、その心の傷が癒えないうちに病死する。
ワイルド作品の傾向:幻想的世界観とリアルな教訓の二面性を意識しよう!
ワイルドの作品の特徴を知っておくと、この先が理解しやすいので、簡単に書いておきますね。
「美」をこよなく愛したワイルドの作品は、幻想的な世界観で、とにかく文章表現が美しいのが特徴です。しかし、ただ美しいだけでは終わりません。「社会の無情さ」という現実を突きつけてきます。
具体的にいうと、
無垢な善人が悪人に尽くしてこき使われ、
ときには無残な死に至る ことすらあります。
ところが、悪人は特に改心も反省もせずに
そのまま物語が終わる のです。
勧善懲悪とか、そういう予定調和的なものは、
本気で何も起こりません(笑)。
オスカー・ワイルドの作品に慣れていない人が「童話」だと思って油断して読むと、痛い目をみます。おそらくこの容赦ない結末に、
「・・・は?」
と、素で呆然とするでしょう。下手したらトラウマです。しかし傷をえぐられながらも読み続けていると、そのトラウマがだんだんくせになってくるっていう。(←わたしです。笑)
まあ、ごくまれに善人が救われることもあるのですが、基本的に報われないパターンが多いです。このようなワイルド作品の「二面性」を、ぜひ記憶の片隅にとどめておいてください。
- 幻想的で美しい童話的世界観
- そのファンタジックな世界の中で突然現実社会の無情を突きつけてくるリアリズム(笑)
オスカー・ワイルドについては、以下の本が網羅的にまとまっていておすすめです!
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「幸福な王子(The Happy Prince)」のあらすじ
ここから本編の紹介と感想に移っていきます!
「幸福な王子」は、オスカー・ワイルドによる美しい短編です。ワイルド作品の中でも、数少ない「善人が報われるパターン」なので、安心して楽しめる作品です(笑)。
「幸福な王子」の簡単なあらすじ
昔むかしある街に、黄金でできた王子様の像(the statue of Happy Prince)が建っていました。
毎日高い台座から街を見下ろし、貧困に苦しむ人々の姿をみて心を痛めた王子様は、たまたま街を訪れたツバメ(a little swallow)の力を借りて、自らの体に埋め込まれた宝石や、体を覆う金箔を人々に届けます。
宝石も金箔を全て貧しい人々に与えてしまった王子様は、すっかりみすぼらしい姿に変わり果ててしまいました。しかし、人々の喜ぶ姿を見て、王子様もツバメも幸福な気持ちに包まれていました。
ところが、そこには厳しい冬が近づいていたのです。
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「幸福な王子」の見どころ:オスカー・ワイルドの表現の美しさ
「幸福な王子」には、童話的なかわいらしいシーンや、美しいシーンが、宝石のように散りばめられています。「葦に恋するツバメ」なんかは、本当にかわいらしくて大好きです!
葦(あし)に恋するツバメ
王子様の像がツバメと出会ったのは、冬が近づくある秋の日のことでした。普通であればこの時期、群れとともに暖かい地域に移動するはずのツバメが、たった一羽で王子様の足元で休んでいたのです。
ツバメが一羽取り残されてしまった理由は、葦に恋をしてしまったからでした。葦を口説き落とそうとやっきになっているうちに、仲間はみなエジプトに旅立ってしまったのです。
One night, a little swallow flew over the city. His friends had gone away to Egypt, but he had stayed behind. He was in love with the most beautiful reed. He had met her early in the spring as he was flying down the river and had thought her so lovely that he had stopped to talk to her.
“He is foolish to love a reed,” the other swallows said to one another. “She has no money and a large family.” This was true. The river was full of reeds.*日本語訳(拙訳)*
ある晩のこと、小さなツバメが、街の上空を飛んでいました。仲間たちはとっくにエジプトに行ってしまったのですが、彼はあとに残ったのでした。ツバメは、いちばん美しい葦に恋をしていました。彼が葦に出会ったのは、春になったばかりの頃。川に舞い降りたときに、葦のことをとてもかわいらしいと思ったツバメは、とどまって彼女に話しかけたのでした。
「葦に恋するなんて、ばかなやつだよ」と、他のツバメたちは口々に言い合いました。「あの子は一文無しだし、大家族じゃないか」。その通りでした。川いっぱいに、葦が生い茂っていました。ーOscar Wilde, The Happy Prince
, Compass Publishing, 2009, pp.5-7.
「ツバメが葦に恋をする」という発想が本当にかわいいですよね(✿´ ꒳ ` )
星の王子さまとバラを思い出します。
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「幸福な王子」のテーマ:献身の尊さと、その喜びを分かち合う幸せ
「幸福な王子」では、献身の尊さと、その喜びを愛する人と分かち合うことの幸せが描かれています。
最初は葦への愛を求めるだけだったツバメが、「自分のできる善行を行うことで、誰かを幸せにすることができる」ことへの喜びを知り、さらには王子様とその喜びを共有することで幸せを感じていきます。
このツバメの精神的成熟こそが、作品の見どころでありテーマなのです。
ツバメの目覚め:「自分が人を幸せにできること」を知る。
葦への気持ちが冷めて我に返ったツバメは、一刻も早くエジプトに向かわないと冬を越せないことがわかっていたため、急いで出発しようとします。しかし、王子様がツバメを引き止め、貧しい人々のために宝石や金箔を届けるようにお願いをします。
最初は気が進まなかったツバメですが、初めて貧しい母子に宝石を届けたときに、自分の中に温かい気持ちが芽生えていることに気づきます。
The swallow flew back to the Happy Prince and told him what he had done. “It is strange,” he added, “but I feel quite warm now, although it is so cold.”
“That is because you have done a good thing,” said the Prince. The little swallow began to think about this, and then he fell asleep.*日本語訳(拙訳)*
幸福な王子のところに飛んで戻ると、ツバメは、自らがやり遂げたことを王子様に報告しました。「おかしいなあ」と、ツバメはつけ加えました。「でもいま、とても暖かい感じがするんです。こんなに寒いっていうのに」
「それは、お前が善いことをしたからだよ」と王子様は言いました。小さなツバメは、このことについて考え始めました。そしてまもなく、すとんと眠ってしまいました。ーOscar Wilde, The Happy Prince
, Compass Publishing, 2009, p.14.
「自分の行いが人を幸せにできる」、「それはとても嬉しいことだ」と気づいたツバメは、もう一日だけ、もう一日だけ・・・と王子様のもとに止まり、貧しい人々のために働くようになります。
ツバメはかわいそうなのか?:ツバメは自分の好きに生き、幸せだった。
最初のうちは、ツバメは仲間たちの待つエジプトに向かうことで頭がいっぱいでした。しかし彼はいつしか、サファイアの目を失い何も見えなくなった王子様に寄り添い、その身を捧げることを決意していたのでした。
Then, the snow came. The little swallow grew colder and colder, but he would not leave the Prince because he loved him so much. He picked up snow to eat and tried to keep himself warm by flapping his wings, but soon he knew that he was going to die.
He had just enough strength to fly up to the Prince’s shoulder once more. “Goodbye, dear Prince,” he said, “Will you let me kiss your hand?”
“I am glad that you are going to Egypt at last, little swallow,” said the Prince.
“I am not going to Egypt,” said the swallow, “I am going to die of hunger and cold.” He kissed the Happy Prince and fell down dead at his feet.*日本語訳(拙訳)*
まもなく、雪が降り始めました。小さなツバメはどんどん冷えて冷たくなっていきましたが、王子様のもとを去ろうとはしませんでした。ツバメは王子様のことが大好きだったからです。彼は雪をつまんで食べ、羽をバタつかせて体を温めようとしました。しかしすぐに、自分がこのまま死ぬのだと悟りました。
ツバメは、残された最後の力で、王子様の肩まで舞い上がりました。「さようなら、愛する王子様」と、彼は言いました。「あなたの手にキスをしてもよろしいですか?」
「よかった。ついにエジプトに向かうんだね、小さなツバメよ」と、王子様は言いました。
「エジプトにはまいりません」と、ツバメは言った。「僕は、餓えと寒さのために死ぬんです」。ツバメは幸福な王子にキスをすると、落ちて王子の足元で息絶えたのだった。ーOscar Wilde, The Happy Prince
, Compass Publishing, 2009, p.21.
幼いときに『幸福な王子』の絵本を読んだときには、「王子様の身勝手に付き合わされた挙句死んでしまうなんて、ツバメがかわいそう」と思って、この物語、嫌いだったんですよね。
でも、今読むと、ツバメにとっての王子様は、「ツバメが人を幸せにできる」という可能性を教えてくれた恩人であり、「人を幸せにできることは嬉しいことだ」という価値観を共有できる大切な友人になったのだと思います。
大好きな人と、自分の好きなことができるというのは幸せなことですよね。だから、「ツバメは好きに生きたし、幸せだった」と思います。
大嫌いだった「幸福な王子」も、いまはわたしにとって大好きな作品へと変わりました。
- 献身の尊さとその喜びを大好きな人と分かち合うことの幸せが、「幸福な王子」のテーマ。
- 命を落としたとはいえ、「献身の喜びを友と分かち合うこと」を自らの意思で行なったツバメは幸せだった。
このように、「幸福な王子」は、献身の尊さを描いています。しかし一方で、次の「忠実な友達」は、こちらがいくら身を尽くしても、それを容赦なく利用する悪が存在するという「どうにもならない現実」を描いています。
「友だちに尽くすことは友情なのか?」「真の友だちとは何なのか?」を考えていきましょう!
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「忠実な友達(The Devoted Friend)」のあらすじ
「幸福な王子」で献身の尊さを見事に描き出したオスカー・ワイルドでしたが、この世はそんな美しい心を持った人だけではないことを教えてくれるのが「忠実な友達」です。
まあ、ワイルド作品の典型パターンです。(嫌な予感しかしない!笑)
「忠実な友達」の簡単なあらすじ
昔むかしあるところに、ハンス(Hans)という善良で幸福な男がいました。
ハンスは家の庭で花や果物を育て、それを市場で売って生計を立てていました。しかしハンスの親友の粉挽き(miller)は、ハンスの家に訪れるたびにハンスの花や果物をかごいっぱいに詰めて持ち去り、何のお礼もしないのでした。「真の友だちは何でも分かち合うものさ」。それが粉挽きの口癖でした。ハンスは疑いもせず、その考えを素晴らしいと思っていました。
ところがある日、粉挽きは、壊れて処分する予定だった手押し車(wheelbarrow)を、ハンスに譲る約束をします。珍しく気前のいい態度を見せた粉挽きでしたが、それを皮切りに、事あるごとに手押し車の約束を盾に、ハンスに労働を要求し、体良くこき使い始めます。そして粉挽きの要求がエスカレートしていく中で、ついに事件が起こるのでした。
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「忠実な友達」の教訓とテーマ:「真の友だち」とは何か?
善良なハンスは、求められるがままに、粉挽きに何でも与えた結果、とてもショッキングな運命をたどることになります。
この物語の教訓から、「真の友だち」とは何なのかを考えていきましょう。
「忠実な友達」の教訓:現実には善良な人を利用する悪が存在する。
善良なこと、人のために尽くすことは尊いことです。ですが、そういったことを喜んでする善良な人を、意図的であれ無自覚であれ容赦なく利用し、やってあげればやってあげるほどどんどんつけあがって要求がエスカレートしていき、搾り取れるだけ搾り取ろうとする悪は、現実にはどうしても存在するということですね。
わたしが初めてこの物語に出会ったときは、童話だと思って無防備な状態で読んだために精神的ダメージを受け、結構トラウマが残りました(笑)。なので、多くは語りませんが、
- 人の「善」を信じたいけれど、基本的には「性悪説」を支持しておいた方がいい。
- 自分自身は「善良」でありたいけれど、決して「無知」でいてはならない。
- 身近な人を軽んじていないか(やってもらって当然と思っていないか・感謝を忘れていないか)たまに反省すべき。
- 過去に自分がされて嫌だったことは、人にはしない。
といったことを、肝に銘じさせてくれる作品です。
「忠実な友達」のテーマ:「真の友だち」とは「幸せや喜びを分かち合える人」
「忠実な友達」の作中で、粉挽きが「真の友だちは何でも分かち合うものさ(”Real friends must share everything.” p.26)」という上っ面の「友情論」を振りかざします。そしてその友情を盾に、粉挽きはハンスに花や果物、労働力といった「もの」を提供することを要求します。
しかしここで思い出してください。
「幸福な王子」では、王子様とツバメは「自分たちができることで人々を幸せにする喜び」を分かち合っていました。わたしは、ここに真の友情があると思うのです。
決して「もの」を分け合うのが尊くないと主張しているわけではありません(笑)。例え友だちと「もの」を分け合ったとしても、それは「もの」を通じて、実際は「幸せや喜び」を分かち合っているのだと思うのです。
「幸せや喜び」を分かち合える友だちこそが「真の友だち」なのだと、オスカー・ワイルドの二つの作品を通じて感じました。
- 現実には、善良な人を利用する悪が存在する。彼らは物や忠節を人に無闇に求める。友情を盾にして、求めに応じないことへの罪悪感を抱かせようとすることさえある。
- 「幸せや喜びを分かち合える友だち」こそが「真の友だち」である。
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『幸福な王子(The Happy Prince)』で覚えた英語表現!
わたし自身がオスカー・ワイルドが大好きなのもあって、物語やテーマについて割りと熱く語ってしまいましたが、今回の読書は英語多読の一環なので、覚えた英単語もご紹介しておきますね。
- reed
“Will you come away with me?” he asked her. The reed shook her head.(p.7)(「僕と一緒に来てくれるかい?」とツバメは葦に尋ねました。葦は首を振りました。) - devoted
Friendship is much more important than love. Nothing in the world is more important than a devoted friend.(p.24)(友情の方が愛よりもずっと重要だよ。忠実な友だちよりも大切なものなんて、この世にないね。) - wheelbarrow
“Have you forgotten,” said the miller, “that I am going to give you my wheelbarrow? It is very unfriendly of you not to do something for me.”(p.34)(「忘れたのかい?」と、粉挽きが言いました。「俺の手押し車をお前に譲ろうっていう話さ。何もしてくれないなんて、ずいぶんと冷たいじゃないか。」)
復習にどうぞ!
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まとめ:「理想の美しい世界」と「どうにもならない現実」

ここまで「幸福な王子」と「忠実な友達」を見てきて、オスカー・ワイルド作品の二面性を堪能いただけたかと思います。
- 幻想的で美しい童話的世界観
- そのファンタジックな世界の中で突然現実社会の無情を突きつけてくるリアリズム(笑)
一歩間違うと、トラウマとも劇薬ともなりかねないワイルドの童話は、実は彼の2人の息子たちのために書かれました。
オスカー・ワイルドは、子供が生まれた後は、ほとんど家庭を顧みず、男性の恋人とヨーロッパ旅行をしたり遊びにふけったりしていたようですが、息子たちのことをとても愛していて、実際に息子たちに自身の書いた童話を読み聞かせたと言います。
19世紀末のイギリスは同性愛者への風当たりが現代よりもずっとずっと強く、下手したら死刑です。実際にワイルドも「男色の疑い」で投獄されています。
ワイルドの作品が、美しく幻想的な世界なのに、妙にリアルな現実を突きつけてくるのは、息子たちや「美」そのものに対する愛情と、どうやっても社会に認められない、報われない自らの運命という現実があらわれているような気がします。
それでは、今日も素敵な一日を!
fummy
(小尾芙佐さん訳がとても美しくおすすめです…!)